●墨淡の日々 其の弐
ここで新製品の割にはあまり自慢されることの少ない
と言っているあいだに生産中止となったモノクロ・ハイレゾ機
PEG-T400の愛しさについてさらにくどくどと語ってみた。
2002年も半ばを過ぎ、もはやカラー機種しか販売しなくなった日本のパーム市場のなかで、PEG-T400という機種はまさに異端児と呼べる決定的な何かを残して逝ってしまったように思える。画像表示の遅さ、対応アプリの開発の遅れなど、Handeraほどマニアックではないが、モノクロ・ハイレゾ機種という分野が、実際はかなり実験的な市場投入であったように思える点が多々ある。しかしその中途半端な存在こそがPDA端末の機能的住み分けの重要な課題をはらんでいたとも言えるのではないか。![]() 一度は遺影になりかけたT400の写真 |
||||||
2−1.カラー液晶の魔力? カラー液晶の色調(RGB)は単純にモノクロの3倍の表現力に相当する。例えばインターネットの情報は早くから広告などのアイキャッチに慣れてしまっているため、映像表現はWebそのものの特徴ともなっている。だが実際に携帯端末でアイキャッチの必要なデータがどれだけ必要なのかという問題がある。Palm-OSのインターフェイスはGUI(グラフィック・ユーザ・インターフェース)を多用しながらも、GUIの操作が簡潔に仕組まれているため、アイキャッチの誘導がモノクロでも十分に判りやすく整理されている。問題は高度な映像表現そのものが必要となるようなアプリがどれだけ存在するか、ということなのだが、現状では画像閲覧、インターネット、ゲームというものしか思い浮かばない。この手のエンターテインメントをPDAで利用する手段としてカラー液晶は必要だ。しかし私のPDAの使い方ではカラーの情報が必要な頻度は10%にも満たないというのが本音である。 モノクロ・デバイスというものは歴史的にみても、印刷機から写真、テレビやコンピュータに至るまで、大衆的なメディアは凡てモノクロ表示から開始されると相場が決まっている。価格、処理能力、そして有用にして最低限のデータ表示にはモノクロが最適なのだ。過去において既に記号化された情報世界は意外と充実しているともいえます。ちなみにアニメやSF映画に登場するGUIは、不思議と実写的であるよりは記号的なものが多い。多分、非現実のなかの現実との区別をする必要がある一方で、そのほうが断然カッコイイのでございます。Palm脱力ゲーム協会はさらにファンダメンタルに「二階調モノクロ」でなければいけないと言っております(想像するところデザインのチープさ以外に、表示の速攻性が脱力度に影響するため)。なのでPDAもかく在るべし。 |
|
|||||
現状ではモノクロ以上の表現力を必要とする情報は、逆にメディア等のコンテンツ・サービスが追い付いておらず物足りないと思うのが常で、ようやくPDA用の電子出版に共通のプラットフォームができたという感じである。それでも新聞や週刊誌程度なら、カラーである必然性は私にとってやはり10%にも満たない。PDA書籍の価格の目安になる出版業界でさえオールカラーのグラビア誌のコストが通常のタブロイド誌の5倍もすることを考えると、どのみち非現実的なのである。そのうちデジタル放送の携帯版とかが出てくればオンデマンド・コンテンツの魅力がぐっと増してくるように思えるが、何年先になることやら。 もうひとつはバッテリーの問題。超薄型で登場したT400と同じタイミングで登場したT600や後継機種のT650だが、高性能もさることながら、バッテリー消費量も並々ならないものがある。カタログスペックではT400=15日間、T600=12日間と変わらないようにみえても、実際は両者とも「バックライトなし」の状態という落とし穴がある。バックライトが必須のカラー液晶にとってみれば、実際は3〜4時間相当というノートパソコン並みのバッテリー持続力であることが判る。私もT650を使用してみて、Webの閲覧や辞典などの検索機能に優れた点は認めながら、読書を1時間強続けたあとにバッテリー残量が100%→60%に減っているのには閉口した。もともと機器の面倒見の悪い私なのでバッテリー切れは致命傷でもある。それも音楽や映像を見るのではなく、たかが文字を読むくらいで…。私にとっては、カラーは遠くにありて想うもの…となった。 いずれ技術の発達で、小型で高性能な電池が現われるか、省電力なカラー版の電子インクなどが出てくる可能性はあるが、現状では数年先の未来技術である。 |
![]() Webクリッピング版のWetherNewsより 「ひまわり」の映像はもともとモノクロだもんね |
|||||
2−2.文化は薫り習慣は臭う? T415の販売終了とともにアメリカでは電池交換式のSL10が、香港、オーストラリアでは充電バッテリー式のSJ20が、それぞれモノクロ・ハイレゾの後継機種として登場している。Palm InfocenterでのSL10の印象は液晶の反応が遅いためeBookのページ切り替えにストレスを感じるとか、モノクロ液晶が暗くて常にバックライトが必要などの意見がある一方で、駆体のデザインがキュートだとか、子どもが乱暴に扱うにはこの程度の機種が丁度好いという意見もある。欧米圏に根強い非ハイレゾ派の一端はアルファベットと漢字文化の違いのように云われることが多いが、実際には欧米圏のPDAユーザー層が文字情報に慣れ親しんだ学歴のある人たちで占められているのではないかという気もするがいかがだろうか。テレビなどの映像メディアの枠がPDAにまだ収まっていないという現実もあって、PDAにおける中所得者層のユーザーニーズの住み分けが進んでいるとも考えられる。または映画館=劇場という映像文化のパーソナリティが発達しているという面も加味されるかもしれない。もちろんニュースなどの情報は3分程度の映像も、文字で知り得るなら1分も時間を割かずに済む利点もある。保存するデータ量のコンパクトさについても当然理由はあるように思う。ともかく文字情報のみという世界もあながち捨てたものではない、というのがパーム・ユーザーの本音ではないだろうか。 日本と同様にアジアのなかでも高所得者に属する台湾クリエ・ユーザー・グループにもあるように、クリエのブランドイメージはむしろ中国語圏で根強く、やはり漢字表記というハードルを越えるにはハイレゾ液晶以外に考え難いというのが実状のようだ。かつて通ってた大学にドイツ人で漢字教育の研究をしている人がいたが、漢字という図像的文字と音節だけのアルファベットによる教育の発達程度の差について研究しているとのことだった。こうした視覚と思考の関係、図像的把握への好悪など、文化的に考察してみるのも面白いかもしれない。(案外、アフリカだと音の表現が重要だったりするかも…インターフェース上で自動音読装置が働くとか…) 私の場合、ハイレゾ表示は画像処理のために必要というよりは、文字表示の精緻さにあるといってもいいように思える。 |
|
|||||
2−3.PDAは携帯電話の蓆(むしろ)? また携帯電話にカラー液晶が使われだして久しいが、PDAほどに画面閲覧の時間が長くないことを考えると、アイキャッチに優れたカラー液晶のほうに分があるし、バッテリーの持続もそれほど問題にならないだろうと思う。その意味でも携帯電話と競合してカラー&高機能化に奔走するPDA市場はいかにも分が悪い気がする。それでもPalm-OSのスマートフォンの話題には胸ときめかすものがある。事ある度にバタバタとケースを剥いでから合体というのもちょっと…照れますよね。次第にパームで通信という行動から遠のくのが現状。(私の憧れとは裏腹に「携帯電話は私のPalmに近寄るな!」という米国の痛快コラムあり…ちょっと古いかな?) そのスマートフォンだが、液晶表示と持続時間というのはかなり切迫した問題となる。携帯電話の需要が日本ほど進んでいないアメリカにおいて、Palm-OSやPocketPC、Linuxなどをベースにしたスマートフォンの市場開拓は今が旬であるといえるかもしれない。そのなかでCDMA2000をキャリアとしハイレゾ画面をアナウンスしているKYOCERA 7135(通話3.5時間・待受け150時間)だが、Treo300(通話2.5時間・待受け150時間)などと比べて欧州標準のGSM携帯でないとか、キーボードがテンキーのみであること、ハイレゾである必然性のなさが指摘される一方で、旧機種でモノクロモデルのKYOCERA 6035(通話5.0時間・待受け180時間)に比べてバッテリー持続力の弱い点を指摘されている。カラー化するだけで30%もバッテリー性能が落ちるとなれば厄介ですわね。また欧州で人気のSymbian-OSによるNokia 9290(通話4-10時間・待受け230時間)に比べて視認性に欠けるなどの指摘もある。この辺りはスマートフォンのデザインと基本性能のバランスの難しさを感じる。 日本だとさしずめTron-OSがこの種の話題に出てくるのだろうが、テンキー入力が一般化して、さらにPOBoxのような便利な予測変換ソフトが出るとなると、この辺の市場参入の事情はさらにややこしくなりそうである。そもそも日本では無線キャリアの縄張り争いが激しくて、PDAとの関係でみるとあまりユーザーフレンドリーではないように思える。少なくとも欧米や韓国でのスマートフォンの情報を聴くたびに、パソコンとPHSに加え、Air-H"+PDAという二重三重のコスト負担がかなり重たいもの(単純に基本料金だけでも…)だと痛感する今日この頃である。 それでもモノクロ・スマートフォンは日本ではまず販売されないだろうと思うとやはり気が重い。カラー液晶搭載ということ自体が製品広告のアイキャッチになっているのでは?といぶかしげになったりする。ちなみに私の場合、PHSも2年半前のモノクロ小型液晶のまんまである。現行機種だと松下電器ぐらいしか出していないのではないだろうか…やはりモノクロ端末派の受難はつづく。(加えてハイレゾ派という辛い選択に明日はない…涙) ※と言ってる間にJ-Suites for Clieなるものがリリースされてた。むむ、おそるべし…というかモノクロ×ハイレゾ・ファンには福音ですな。基本的にPowerFontをHackで制御するタイプなので、動作は比較的軽いものと思われます。 |
![]() モノクロでも充分な表現力のあるCuteBookのアイコン 携帯電話にもきっとこんなのでるよね…きっと。 |