●墨淡の日々
ここで新製品の割にはあまり自慢されることの少ない
と言っているあいだに生産中止となったモノクロ・ハイレゾ機
PEG-T400の愛しさについて連綿と語ってみた。
大好きな泉鏡花さまにはおよびませんが大正浪漫風のつもりです。
今日日(けふび)流行りの天然色でなく 其れにこだわるには相応に理由(わけ)がある。 掌に過剰なる期待を載せぬがため、 全てなしえるわけじやなしと自戒の念を込めつつ、 じわじわと立ち込むる思索の念を掌に甦らせむがために Zen of Palm、掌における禅といふ言葉は、 ひとが想像しうる以上に私のイマアジユを刺激しむる。 嗚呼、モノクロウムの審美なる哉。 絹黒の手袋を填めた手首のやうに 或る限界のなかに好い加減の規律が醸成され 狭く感じようどころか逆に心地よくもある。 しかしてモノクロウムは我が掌に抱かれ 弐バイトの血脈を冷酷に刻みつつ 静謐に煌めく思念の舞台と相成る。 古への人の石板に刻みし絵文様のごと あくなきイマジユナシオンと的確なる造形抜きには 感知しえぬ境界のモノロオグは 実に人でしかその喜びも悲しみも感知しえない観念を 常に濯ぎ込むることこそ相応しく、なほも愛おしい。 嗚呼クリエ、汝、なほもしほらしく愛おしき哉。 昼陽の陰に映し出る淡い墨を引いた頬には 自らを傲慢に陥れない静謐な趣きのゆえ まさに恥じらう伏し目のやうに画は移りゆき 我と我が情念を静かに受け止めまた見つめ返す。 ひやりとしたアルミニウムの肌に薄衣をあて エレキテルのかほそき鬢より零るる黒髪を 解きほぐせる筆跡の凛としたしたたかさは 緩やかにたゆたふ初夏の風を思い和む。 嗚呼モノクロウムに我が夢豊かなり。 凛とした文字の裏に妙たうグレイスケイルに かそけき夢の欠片は手に手を取り起き出り。 自然の色彩を拒絶した潔い面立ちには 阿吽のごとき合点を得た旧知の輩のやうに まるで媚びずかといって遠慮もせずといった 好い加減に気の利いた団欒を臭わせり。 知遇のことから当の昔の忘れ去りし思ひ出まで 手のひらに載った過去と未来は星月のごと照り交わし 古への言ひ伝えさまに星座を撚り戯れる。 ときに深井戸に落ちたる石の音のごと 私が私である時の経つのが幾重にも巻き返され 私という人と成りを道化芝居のやうに映し出す。 汝、知りたいことはなにか、と問われれば 我、我の過ぎゆく時の不可思議なるを知りたい。 なほ夢は謎を、謎は夢を我に朴訥と告白せり。 夢は叶えられるに能わず、しかもなほ深められたり。 |
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