淡の日々 其の八

ここでは既に生産中止となって1年以上経った
日本で最初にして最後のモノクロ・ハイレゾ機
PEG-T400の愛しさについてチャキチャキと語ってみた。



8−1.実用こそ最愛の武器

 OS5になって感じるのはパーム・アプリにおバカな要素が少なくなったことである。CPUも200MHzを越えて高性能を謳って久しいが、アプリがお気軽&簡単にデビューできる切っ掛けを失っているようにも思ったりする。定番フリー・ソフトは依然として健在だが、特に高性能CPUを必要とするほどのものではなく、これまで通り16MHzで十分動くものも少なくない。むしろOS3時代のアプリには最小限の表示で認識率や操作性を高める工夫がしてあったし、それが施されていないアプリは動かしにくいアプリとして自然と消えていくのが常であった。それでもあの手この手でパームに仕掛けてくるアプリの数が一向に減らないことが驚きでもあった。私個人は綺麗なグラフィカル・インターフェイスよりも、あたかもアプリ作者が手に馴染ませながら造ったかのような、パームと会話している操作感がとても好きである。

 ほとんど関数電卓とスケジュールと辞書しか使わないPDAは、真っ白い紙にアイディアを書きとめるのにジャマにならないし、パソコンで文書に仕上げる前に自分の考えの流れを受け止めるのに十分な機能でもある。そうして作った資料は、客先の反応に自分との食い違いがあっても致命的なミスにはならず、むしろ元のラフスケッチで立てた対話に新しい方向性を見出すことも多い。これが工学的な分野で成り立つのだから、ひとつの勘所が備わっているのだと思う。PDAにはあれもこれも出先で成就するための機能強化ではなく、自分で考えるように仕向けるシチュエーションが思い浮かぶヒントだけあれば良いように思う。

 話しをパームに戻すと、私自身は使ってる機種がモノクロということもあってか、比較的レトロなアプリを好んで使う。ちょうどOS3.5の最後の2000年に買った「Palm Power up Pack 1000」は宝物のような存在だ。この前、ポーランドの人から英語でメールが入って。。。ウィルスかとも思ったのですが。。。内容はPalmUniverse(プラネタリウム)のモノクロ版をホームページで観たので分けて欲しいとのこと。いかにもパーム・ユーザー的な気軽な問い合わせで鼻水が出そうになったが、調べてみると日本の作者さんのサイトは閉鎖されて他の人によってカラー版にアップデートされ、それではモノクロのパームでは動作しないという。幸いフリーソフトであるということを先方も承知していて、特に問題はないように思われたのでメールでおっそ分けしたが、そういう熱心なユーザーがまだまだ世界には多く居るのだと思うと、かつてのアプリ作者さんは気長にアプリ開発を続けてもらえればと思ったりする。時代遅れどころか古びないセンスが世界に広く認められているのですから。




〜パームユーザーの〜
〜お気軽な一日〜

やっぱりこれが最強



最短で完封
今日は良い日だと思う…



火星が大接近
…って火星はどこ?
8−2.パームは”できるサラリーマン”の持ち物?

 最近のことだが、客先と打合わせをしている最中、関数電卓を叩こうと黒クリを出すと「おや?まるで”できるサラリーマン”みたいだね!」と言われてビックリした。「まるで…」ってなんやねん!。。。(^o*)\バキッ。。。というのはともかく、仕事の予定をパームに入れない私としては、変な感触を受けた。

 そういえばパームといえば調べ物なのである。”できる”というより”できない”ことをやるのがパーム。そういう認識があった。だから電卓使わず暗算できる人は凄いし、予定が頭のなかに全部入っていて即答できる人は”できる”人なのである。できない。。。そういうことを防ぐのがパームの出番といって過言ではない。

 最近になって教会の年表を整理する会議に出る機会があった。日曜日以外で行事のあった日が何曜日か?1970年代の曜日なんて何を調べればいいのか?最初はスケジュールで調べようと1ヶ月置きに捲っていったが30年前に辿り着くまでには360回圧さなければならない。そこでピンチヒッターの「むかし暦」を使って簡単に確認することができた。「?」なことに対応できるアプリが簡単に手に入る。そういう意味で”できる”ということも肯ける。

 しかし例のお客さんのイメージも判らないでもない。常に変化する情報を電子手帳で活用していく”できる”サラリーマン。ソニーさんの公告のようなイケメン・ユーザーに鼻血を出しながら大きく頷いたうえで、ようするにアップ・トゥ・デイトな話題と共に生きていない私は”できない”サラリーマンであって、できないことをコンパクトに持ち歩く主義とも言える。私的には手軽さ、身軽さというビジネス・スタイルのほうがよっぽどカッコイイと思う。








起動した数だけ星が付く
Watch-Ya!
8−3.スローライフ

 T400も買ってから2年半経っている。当然新鮮な気持ちなどミジンコほどもないのだが、なんとなくいつも一緒に行動しているという感じだ。スタイリッシュな出で立ちとは対象的に、地味な機能しか持ち合わせていないのであえて大げさなことはしない。バッテリーがヘタってきたとはいえ、1週間に1度充電すれば十分に動くというのも気に掛けないで済む原因かもしれない。このなにげない仕草がT400を電子製品であることを忘れさせてしまう。

 一部の好事家の間ではスローライフというのが流行っているそうだ。あえて生活のスピードを緩めて、ゆとりの生活を送ろうというものだ。例えば休日には森や河原などに行って、あえて何もしないで過ごす。バーベキューとかハイキングとか余計なことはいっさい抜きである。そうすることで自分のリズムを取り戻していけるのだろう。

 余計なものがないという点では、Palm-OSはもともと省電力+省メモリの優等生で、情報端末として機能を増やすよりは、情報管理の方法をデザインすることで効率化を目指していた。ああなりたい、こうなりたい、と嘆くよりは、ああしよう、こうしよう、と意見を引き出すほうに感心があったように思う。そうした意見が成熟してOS5になったのかどうかは判らないが、案外ユーザーのなかにはシンプルさを求める人も少なからず居るようで、バージョンアップして表示速度の速くなったソフトもまだまだある。CPUの処理速度が10倍以上になった現在の情況では、これは大変驚くべきことだと思う。

 製品としてのT400は販売開始から半年で終わってしまっている。多分初回ロットがはけた時点で増産されないままオフコンになったのだろう。しかし電子手帳としての寿命はまだ尽きていない。というより、これからが正念場といえるだろう。







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