淡の日々 其の七

ここでは既に生産中止となって1年以上経った
日本で最初にして最後のモノクロ・ハイレゾ機
PEG-T400の愛しさについてホロホロと語ってみた。



7−1.シンプルという豊かさ

 ヨーロッパのインテリアでZEN-Styleというシンプルデザインが流行しているらしい。各家具の機能を絞り装飾を極力排したモダンスタイルだが、自然の素材を生かした暖かみのある空間を演出。煩悩に埋もれて浮き世の憂さを晴らす時代に別れを告げ、環境や人にやさしい生き方を模索する。情報をシンプルに徹することは可能性を否定するのではなく、発想を豊かにする場合さえあるのだ。無印良品など日本発のシンプル・プランがヨーロッパ市場で受け入れられているとも聴く。

 かつてビジネス関係者の誰もが分厚いシステム手帳なるものを持っていた。ともかく多機能で様々な情報をコンパクトにファイリングするものだ。今も持っている人は多いかもしれないが、最近よく見かけるのは大学ノート(死語?)である。会議などに出席すると結構な年輩の人もなにげに大学ノートにシコシコとメモを取ってたりする。企業間でもサイフは堅いので単純なアポのメモ程度ではダメで、ニーズに即した戦略やリサーチのメモも一緒に取っていかなければ追い付かない。シンプルなモチベーションで不況時代に相応しく柔軟に対応する。これぞZen-Styleの原点でございます。

 私の職場では裏紙ノートというのが昔からのパターンで、プリントに失敗した紙をクリップで留めて、何気ないアイディアやスケッチをフリーハンズで描く。構造計算のモデルから図面のレイアウトまで、ラフにスケッチして適当な注釈を書き込んでいく。どうも新しい紙だと成功例だけのきれい事で埋め尽くされるし、大学ノートの罫線は図形を描く上でじゃまなのだ。実は構造デザインなどをしていると、フレーム計算ではフォローできない構造形式が沢山あり、そのモデル化が製品の長期的な品質を左右することが多い。機械屋さんなどは最新のFEMなどで詳細設計することが多いが、土木分野では物性の不均一なものが多数あるので、現象理解のほうが先決なのである。そこで予測できる事態をスケッチしてモデル化する。これが問題解決の最初のステップなのである。

 こんなときは我が愛しきパームはお役ご免でプラプラ遊んでいる。(別にゲームをしているわけじゃ。。。(^o*)\バキッ) もちろんパソコンも省電力モードで動いていない。私がパームを使い出して感じた第一のことは、人間の力をコンピュータの限界に任せてはいけないということ。「こういう計算しかできません」ということでお役ご免になれるほどに自然現象は甘くないし、待ってもくれないのだと普通に考えるようになった。単なるビジネスのタイミングだけに拘らず、たとえ相手が急いでいても最終的に好い判断を失えばそのレポートはやり直し。ウサギとカメの競争を見守るくらいの冷静さを失わないことが好い結果に結び付くと肝に銘じている。





かつての台風の目…
PEG-T400
7−2.Palm-OS of Zen-Style

 私にとってアルミ一体成型のT400はシンプルな情報カードとして、ZEN of Palmの魅力を感じさせる。もともとPalm社の製品には無印良品的なイメージがあって、PDAにありがちなアプリの制限がなく、欲しいソフトが大体揃うのが魅力だ。インターフェースがこなれていて、たとえ英語版のソフトでも動作が簡単であまり気にならないのもいい。小さいながら、いやむしろ小さいゆえに一種のボディ・ランゲージを感じるコンピュータでもある。

 もともとPalm-OSは手帳のように限りなく紙の使用感を目指した時点で、ZEN-Style以前のZEN-Styleだったのかと思う。シングルタスクで省電力&省メモリー。肥大化するパソコン市場とは逆行する姿勢が潔かった。そのうちVisorとCLIEが鍔迫り合いを繰り広げるマルチメディアの熱にうなされて、無駄な部分をさっぱり切り捨てた感性は後退したが、逆に今の時代なら周囲の状況が清貧の思想をさりげなく受け止めてくれるように思うのだがいかがだろうか。

 モバイル・コンピューティングがコミュニケーションの未来像を描き出すなかで、パーソナルな情報を蓄えるよりも他人の情報を掻き集めるほうがビジネスになると考えたのか、情報のアドバイザーはやがてナビゲーターへと変貌していったと思う。犬を散歩させてるはずが、犬に運動のお手伝いをさせている情況である。やってることは同じなのだが、企業の願うビジネス・モデルにユーザーが引き摺られているような気もする。色んな意味で自分のことは自分で決めるというセオリーを大切にしたいと思う。

7−3.T400は癒し系

 ふとヨドバシカメラを横切るとバリエーションの少なくなったと思われたPDAコーナーがむしろ賑わっているように見えた。最近のクリエはすっかりスマート&インタラクティヴな性能に磨きを掛けて、それでいて以前のようにバッテリーが保たないということも少なくなってきた。ソフト全体がOS5へ移行するのはゆっくりとしているが、SJシリーズでOS4機種を出すことも忘れていない。

 そうした手際のよさを横目で睨みながら、自分のT400を手にしたとき、どこか世の中のビジネスっぽい雰囲気というものと隔たった自分の感覚を感じる。店頭に並ぶカラー機種の画面が変わる一瞬にチラツキながらテキパキと動く液晶は、どこか「仕事をしろ」という催促をされているようで、何をすべきか考えながらスタイラスを置くちょっとした間が保てない。2年近くT400を使って手に馴染んでくると、おっとりとした液晶の動きが自分のスタイルとマッチしていることに気が付いた。

 何でもハイの一言返事で仕事をこなすやり方から、少し考えて自分の責任範囲を明確にしたうえで仕事に取り組むほうに、やり方が向いてきたという感じもする。見えてる画面が全てではなく、そこに含まれ関連する様々な事柄を思い浮かべる時間を楽しむ…そういうインタラクティヴな生活を選ぶのも、実は自分自身なのだという気がする。





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