U 文化史関連書籍

◆思想化される周辺世界 岩波講座 文化人類学12
岩波書店
古典的博物館の展示にみられる進歩的歴史観=近代化の神話への批判からはじまり、未開の文明という理想郷、文化の混血、観光化する伝統文化など、啓蒙時代のなかで相対化された現象を、ふたたび市井の生活の手の内に取り込もうと模索する学問の案内役。

◆身体:よみがえる 越境する知[1]
栗原 彬ほか 東京大学出版会
魂と肉体という古典的なヒエラルキーに対し、体験や触感という認知によって開かれる知の身体性について、複数のコラムを組んだオムニバス。

◆創造神話の事典 
D・リーミング+M・リーミング 青土社
様々な文化に伝わる創造神話。自分は何者で、人間とはどういう生き物なのかを、物語として伝えてきた民族の知恵が凝縮された世界。

◆日本民俗事典
大塚民俗学会 弘文堂
日本の習俗を体系的に、的確な説明でみられる良書。下の「日本の民俗」と並行して読むと理解が深まる。

◆日本の民俗 上・下
芳賀 日出男 クレオ
写真集。上巻「祭りと芸能」、下巻「暮らしと生業(なりわい)」に分かれて、フィールドワークで撮り集めた写真を多数収録。モノクロームの深い表情と、記念写真ではない生き生きとした描写が見事。芳賀氏はこの世界の第一人者でもある。

◆芸能史 体系日本史叢書21
服部 幸雄ほか 山川出版社
古典芸能からいわゆる芸能界にいたる、芸人、芸能人の歴史を追う。アイドルという商品にまでいたれば、芸の華もひろがるものと思うが、ここは芸の中身が生死を分かつ勝負の世界を手堅く網羅している。そもそも芸の名前さえ知らないものもあるので、深く知りたいなら他をあたってみるもヨシ。

◆芸術と娯楽の民俗 日本の民俗学8
雄山閣出版
まだよく読んでいません。でもいい本だと思います。

◆郷土玩具の旅 東日本編・西日本編
山本鉱太郎 保育社カラーブックス
小学生の頃、郷土玩具マニアだったということから愛読したカタログ集。神官でなければ保有できない縁起物のしくみを、子供が手にとって味わうという点でユニークな歴史をもっている。

◆日本の集落 1・2・3巻 住宅建築別冊
高須 賀晋+畑 亮夫 建築資料研究社
写真集。ともかく撮りも撮ったり、田舎の集落の様子を航空写真から実際の家まで蒐集したもの。最近になって中世の荘園制度や新しい開墾の技術などが、農村風景と深く関わっていたことが判り、その点でもジオグラフィーを総覧して改めて観る資料として貴重でもある。

◆神々の変貌 社寺縁起の世界から
桜井 好朗 ちくま学芸文庫
寺社縁起にみられる物語の歴史的発展の足跡を分析し、原始宗教、国家宗教、世界宗教という広がりを説く本。基本的には寺社縁起によせる信頼が基盤となっているため、批評はすれど批判はしないというスタンスを保っている。

◆江戸川柳便覧
佐藤要人 三省堂
江戸の風流、川柳の世界を当時の図版を多用しながら紹介してくれる良書。とくに当時の門付け芸人の姿を川柳とともに多数収録してくれるのが嬉しい。

◆中世の秋 上・下
ホイジンガー 中公文庫
ロマン派の影響を脱した文献学に基づいた中世ヨーロッパの爛熟した世界の描写と水先案内。命よりも名誉を重んじる貴族と生きるために柔軟に豹変する民衆の演技的性格など、ペストと飢餓に悩まされた時代に織りなされた人間臭い世界が立ち上ってくる。二度の世界大戦の合間に書かれた点でも、この書物のもつ影響は大きなものがあった。ファシズムが民族の神話を自明のものとして科学的に弁明するなかで、命を生活の風景のなかで演じることで、なおも生き続けようとする人間の尊厳に光りを当てた点でも感動させられる。彼の著作には「ホモル−デンス(遊ぶ生き物)」というのもある。

◆ハーメルンの笛吹き男
阿部謹也 ちくま文庫
大学時代に読んで影響を受けた本。文献学の世界と「ハーメルンの笛」伝説に挑む様々な人の人間模様を描くことで、歴史もまた人の思想を支える神話であるという、ユニークな視点をもった本。誰もが知る単純な童話がもたらす謎解きの面白さと、人間がかくも過去の記憶と格闘して自由を得なければならないかの、本当に問いかけられるまじめな問いとが交錯していて、氏の教育者としての一面も感じられる良書。

◆ロンドン路地裏の生活誌 上・下
ヘンリー・メイヒュー 原書房
タブロイド誌の先駆的存在だった「モーニング・クロニクル」紙で連載された「ロンドンの労働とロンドンの貧民」のダイジェスト版。図入りで解説されており、労役者、スラム、公害といった、ロンドンという大都会で起こる世界でも類を観ない現象のなかで生きた人々が描く人間模様と、ユニークな仕草、笑える話しや涙を誘う話しなど、イギリスが紳士貴族の国ではなく、シェークスピアの国であったことを思いおこさせる。

◆アジアの美術 福岡アジア美術館のコレクションとその活動
美術出版社
世界でも珍しい現代アジア美術を常設展示する美術館のコレクション。限られた画材によるファイン・アートから脱して、メディア、政治、工芸、宗教といった、アジア自身が大衆の身体言語として保有してきたものを素材として、自由に繰り出される世に無能な物の陳列。言葉の壁に阻まれて平行線をたどる地理と歴史を生きる部族社会の思いが、その壁をぶち破る瞬間のエネルギーの放出がアートなのか。

◆古典対位法
J・J・フックス 音楽之友社
高校生の頃、コーラスをやっていた関係で読んだ「パレストリーナ様式」の教本。フックス自身はサリエリ以下の作曲家だったが、少年モーツアルトも修学したという、この教則本で繰り広げられる師承と弟子の問答形式は絶品。ポリフォニーの美意識をミニアチュールに展開すると同時に、19世紀以降のアカペラ様式の伝説を広めた張本人でもある。




  戻る
   Back